1.マンション管理のポイントは資金計画にあり

 マンションの維持管理上、最大のポイントは資金計画(修繕積立金等費用負担問題)です。管理組合にお金があれば、ある程度のマンション管理上の問題は解決できます。

長期修繕計画の上で建物の修繕、設備の改修・更新時期は一定のサイクルで発生します。しかし、長期修繕計画(管理組合の意志)に関係なく修繕・改修・更新時期が未到来であっても不具合・故障が発生する場合がありますし、その逆の場合もあります。反面、マンションのライフサイクルの中で、どのタイミングで組合員に幾らの負担を求めるのかは、管理組合の意志が反映されます。不足となるのは論外ですが、将来のための準備(積立)をどのタイミングで始めるのかは、マンションの管理をより円滑に、そしてより良く維持管理していく上でのポイントとなります。

 令和2年6月に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が改正され、連動して「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」が改正されました。改正により、行政の役割が明確化され、管理組合・区分所有者については役割の明確化と責務が強化され、法律上もマンション管理の適正化の推進と終焉期のマンション再生の円滑化が図られてきています。

2.マンションを買ったときは終焉なんて考えない

 マンションが分譲され管理組合の成立時点では、50年以上先にマンションをどうするかなどと誰も考えたことはないと思います。分譲マンションの建設が始まって40~50年しか経過していませんので、分譲マンションの終焉(再生)をどうするかが話題にされることは少ないのではないでしょうか。近年レアなケースとして「廃墟マンション」問題が全国放送のニュースになる程です。しかし、コンクリートの建物とはいえ、終焉は必ず到来致します。マンションは永久的な資産ではないということです。言うならば「有時限財産」であるということです。問題は有時限を何時にするかということです。コンクリート製の建物はメンテナンスが良ければ100年以上は大丈夫と言われています。最近よく聞く「100年マンション」はここから来ているのだと思いますが、いずれにしろ何時かは終焉が到来します。

3.分譲時の長期修繕計画は第1回大規模修繕工事がターゲット

 新築から築浅の時期はともかくとして、築35年を超えた辺りから、マンションの終焉(再生)をどうするかとの問題は避けて通れない問題となります。分譲時、修繕積立金の設定は第1回の大規模修繕工事をターゲットに設定されているケースがほとんどです。第1回の大規模修繕工事が完了すると修繕積立金は一度リセットされ、第2回大規模修繕工事に向け新たな資金計画(修繕積立金の値上げを伴う)構築の必要性に迫られます。築10年~15年過ぎには、順次設備更新等の必要も発生し、設備関係の更新等が長期修繕計画に盛り込まれていないケースでは第2回・第3回目の大規模修繕工事の間に予想外の出費が発生する場合が有ります。

4.戸建住宅とマンションの違い

 戸建住宅の場合、修繕・建替・売却は所有者単独の費用負担・意思決定で出来ます。戸建て住宅の場合、「適正化法」「区分所有法」「管理規約」はないのです。しかし、分譲マンションの場合、建物所有者(区分所有者)は複数となり、意思決定に複雑さが要求されます。費用負担問題では、値上げ(修繕積立金等)を行う必要が生じた場合、合意形成に困難を伴う場合が有ります。更に、一時金として高額な費用負担を求めなければならない事態が生じた場合であっても、個々の区分所有者の経済状態から合意形成を得るには困難が予想されます。

5.早めの計画策定、円滑な合意形成

 マンション管理における最大のポイントである費用負担に係る合意形成を円滑に進めるためにはどうしたらよいでしょうか。それには、早めの計画策定が必須となります。早めに計画することにより時間的な余裕が生まれ、毎月の負担額急増・一時金徴収を避けることが出来ます。統計資料によりますとマンションを終の棲家とする居住者(区分所有者)が増加していることを背景に区分所有者の平均年齢は毎年上昇しています。現実問題としてお住いのマンションの終焉(再生)をどうするか判断しなければならない最終局面では居住者(区分所有者)の平均年齢も高齢化が進み、中には仕事をリタイアしている方も居られ、毎月の負担を急激に引き上げること、ましてや高額な一時金を徴収することは難しくなります

 マンションの終焉(再生)期計画として

・マンションとしての機能(住環境)を何時(限度はあります)まで維持させるか

(1)建物の劣化を最小限にし、維持する期間をできる限り長くする計画

(2)期間を定めてそれまでの間、維持を行う計画

(3)維持する期間中の修繕計画

(4)終焉(再生)期計画として、建替えを行うのか、取壊して売却するのか

(5)維持費用、建替え費用、取壊し費用の資金計画

 以上の検討が必要となります。

(維持する費用について)

 できる限り長く維持する場合においても、その間の設備を含めた長期的・入念な修繕計画が必要となります。一定の時期を定めて維持するためには、終焉(再生)期までに実施する修繕工事のタイミング、実施しない修繕工事の見極めが必要となります。いずれの場合にも終焉(再生)期直前にはできる限り修繕工事を行わないようにし、無駄な出費を避けることが必要となります。

(建替え)

 建替えに関わる法律は令和2年6月に改正が行われ、建替えに関わるハードルが下がっているとはいえ、建蔽率・容積率に余裕のある都心の好立地以外では、取壊し費用・再建築する費用、再建中の生活面からハードルが高く実際に建替えが行われたマンションは少ないのが現状です。建替えを計画する場合は区分所有者の合意と疎漏無く立案された建替え計画が必要となります。

(敷地売却)

 マンションの敷地売却に関わる法律でもある「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」は令和2年6月に改正され敷地売却に関わるハードルは下がってきていますが、除却費用も問題となり、予想より売却価格(手取り)が低額となり、最悪売却できないことも想定されます。取壊し費用は高騰しているのです。都心の好立地であれば購入希望者も出てくるでしょうが、そうでないと難しいケースもありますので、敷地売却を計画する場合は、除却費用の検討・準備をする必要が生じる場合があります。

(終焉(再生)期計画を検討・策定しなかった場合)

 マンションは時間の経過とともに、修繕を行っていても物理的・社会的な劣化は一定程度進みます。管理組合が機能している間は良いのですが、マンションの終焉期が迫り組合員の高齢化等により管理組合活動が停滞してくると、建物・設備劣化が進み住環境は悪化し、空き家の増加、賃貸住戸の増加、管理組合の一層の機能低下・崩壊等を招き管理不全マンションとなって行きます。そうなると、お部屋を売却することも難しくなります。更に区分所有者が死亡した場合、相続人が不明となったり相続放棄され所有者不在となるケースも発生し、マンション自体の売却・取壊しも難しくなり、状況は一層の悪化をたどります。

(今できること)

 現実問題として、終焉期におけるマンション建替え、敷地売却については好立地で建蔽率・容積率に余裕があるマンションであっても、区分所有者の合意形成を図る第一歩から困難を要します。その後の手続きも専門的な知識が必要となり管理組合単体で対応することは難しいのではないでしょうか。協力する業者・アドバイザーの選定は必須になると思われます。更なる法律の改正、助成制度の拡充が望まれる所ですが、現時点で管理組合として対応すべきは資金面になります。修繕積立金等の急増や一時金の負担を回避し、マンションの終焉(再生)をより良い形で迎えられるかは、いかに早く終焉(再生)期計画に取組むかに掛かっています。

「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正により「お金がないから適正管理できない」「合意形成が整わないから適正管理できない」という言い訳はこれから通用しなくなります。先送りは禁物です。